読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

外科 医長 牧野光将

1. はじめに
「食後にお腹の右上が痛くなる」「脂っこいものを食べた後に気分が悪くなる」──そんな経験はありませんか?もしかすると、その症状は“胆石”が原因かもしれません。胆石は身近な病気の一つですが、放置すると痛みだけでなく、腹膜炎や敗血症といった重い感染症を引き起こすことがあります。今回は、胆石の基礎知識から治療法まで、わかりやすく解説します。

2. 胆嚢とは
胆嚢(たんのう)は、肝臓の下に位置する小さな袋状の臓器で、大きさは約7〜10cmほどです。肝臓と十二指腸をつなぐ「総胆管」という管とつながっており、肝臓でつくられた「胆汁(たんじゅう)」を一時的に蓄え、食事に合わせて十二指腸へ送り出す役割を担っています。胆汁は脂肪の消化を助ける消化液の一つで、特に脂っこい食事を摂った際に重要な働きをします。胆嚢がスムーズに機能することで、消化吸収が円滑に行われるのです。

 

3. 胆石について
胆石とは、胆嚢や胆管にできる「石」のことです。胆汁の成分が胆嚢内で濃縮して固まり、結石となります。
胆石はその発生部位により、「肝内結石(肝臓内の胆管にできる石)」「総胆管結石(胆汁の通り道である総胆管にできる石)」「胆嚢結石(胆嚢にできる石)」に分類されます。一般に「胆石」と呼ばれる場合、多くは胆嚢結石を指します。

胆石があるだけでは症状が出ないことも多いのですが、石が胆嚢の出口や胆管に詰まると「胆石発作」と呼ばれる強い痛みを伴う発作が起こります。主な症状は、食後数時間以内に出現する右上腹部の鋭い痛みで、背中や右肩に放散することもあります。さらに、胆汁の流れが滞ったところに細菌感染が加わると、吐き気や嘔吐、発熱などを伴うことがあります。これが「急性胆嚢炎」であり、迅速な治療が必要となります。胆嚢炎が進行すると、胆嚢内や周囲に膿がたまったり、胆嚢が壊死したりして、命に関わる状態に至ることもあります。

また、胆石を持つ人は、持たない人と比べて胆嚢癌の発症リスクが高くなることが複数の研究で報告されています。

現在、胆石に対する最も確実かつ標準的な治療法は「胆嚢摘出術」です。
かつては開腹手術が主流で、術後の回復に時間がかかりましたが、現在では「腹腔鏡下胆嚢摘出術」という、体への負担が少ない方法が広く普及しています。
この術式では、お腹に数か所の小さな穴を開け、カメラと細い手術器具を用いて胆嚢を摘出します。開腹手術に比べて痛みが少なく、回復も早いのが特徴です。また、傷口が小さく整容面にも優れています。

当院でも、強い炎症で腹腔鏡手術が困難な場合を除き、ほとんどの症例で腹腔鏡手術を実施しています。
多くの方が手術翌日には歩行を開始し、術後3〜4日ほどの入院で退院されています。胆嚢が無くなっても、生活に支障が出ることはほぼありません。日常生活への復帰も早く、安心して受けていただける治療です。

5. さいごに
胆石は決して珍しい病気ではなく、多くの方が知らないうちに胆嚢内に石を持っているとされています。無症状の胆石でも、毎年数%の割合で症状が出現する可能性があるとされており、現在症状がなくても将来的に発作や炎症を起こすリスクがあります。
当科では、9月より「胆石外来」を開設し、胆石と診断された患者様の検査・治療に対応いたします。定期的な健診をおすすめするとともに、「胆石あり」と指摘された場合は、症状の有無にかかわらず、お早めに当科へご相談ください。
早期の診断と適切な治療で、将来の不安を取り除きましょう。