読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

小児科 平泉泰琳

朝になると体がだるくて起きられない、頭が痛い、立ちくらみがする――。
それは「起立性調節障害」という自律神経の病気かもしれません。

◆起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)とは?
成長に伴い自律神経のバランスが乱れることで、午前中の体調不良を始めとして様々な症状を引き起こす病気です。
日本の小中学生のうち約5〜10%に発症し、思春期女子にやや多い傾向があります。
保健室登校や不登校となっている子どものうち、ODが背景にある割合は30%以上とする報告もあります。

◆なにが起きているの?
私たちの身体の血液は、立ち上がると重力で下半身にたまります。
健康な人では自律神経が正常に働き、血管を上手に収縮させて下半身からにたまらないように血を送り出し、脳の血流を保ちます。ODのお子さんたちではこの調整がうまくいかず、脳や全身に血流が行き届かなくなってしまいます。その結果、身体のだるさや頭痛、動悸などの症状が現れます。
また、心身のストレスや生活リズムの乱れが重なると、自律神経の乱れが悪化しやすくなります。

◆よく見られる症状
・朝起きられず、午前中は体調が悪い。夜になると元気になる
・立ち上がるとふらつき、めまいがある。ひどい時は気を失うことがある
・入浴や体育の後に目の前が真っ暗になる
・頭痛や腹痛がある。吐き気がして食欲がわかない
・少し動くと動悸や息切れがする。倦怠感が強く、疲れやすい
・乗り物酔いをしやすい など

◆こんなサインがあったら医療機関の受診を検討しましょう
・学校に行きたい気持ちはあるのに、身体がついていかず、行けない
・症状が強くて日常生活に支障が出始めている
・やりたい事ができなかったり、強く叱られたりして自分を責めてしまっている

◆ODの4つのタイプ
起立性調節障害には4つのタイプがあります。検査で分類することで、より適切な対応や治療が可能になります。

◆日常生活で気をつけたいこと
・朝は無理に急いで起きようとせず、時間に余裕を持って行動する
・朝食は塩分と水分を意識して摂る(味噌汁や梅干しなど)
・昼寝のしすぎには注意(夜の睡眠に影響します)
・夜ふかしを避け、早めの就寝、規則正しい生活リズムを心がける
・軽い運動(ストレッチ・散歩など)を毎日少しずつ
・ストレスをため込まない工夫(好きな趣味、リラックスタイム)

 

◆起立性調節障害と不登校
ODの症状は見た目では分かりづらいため、誤解されやすい病気です。
本人も「頑張りたいのに体が動かない」と自分を責めてしまい、心の不調(抑うつ、不安)に発展することもあります。
不登校の子どもにODが隠れていることも多く、早期発見と理解が大切です。
「またサボってるの?」ではなく、「どうしたのかな?」と声をかける姿勢が、何よりの支えになります。

◆いつ治るの?
起立性調節障害は成長とともに自然に改善するケースも多く、予後は良好です。
平均して半年から数年で症状が軽快するとされています。
ただし、放置すると慢性化したり、学校生活や進学に影響を及ぼすため、早期の対応と継続的なサポートが重要です。

◆まとめ
起立性調節障害は、思春期に多い自律神経の病気です。
心の弱さや怠けではなく、体の仕組みによる不調です。
家族や学校、地域が病気への理解を深めることで、子どもたちは前向きに日常を取り戻すことができます。まずは気づき、そして寄り添うことからはじめてみませんか?