読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

循環器内科 小峰征也

●心不全とは何ですか?
心臓は全身の静脈から血液を受け取り、肺を介してきれいな状態になった血液を全身に送るポンプの役割をしています。心不全とは、ポンプ機能の失調により全身の臓器に十分に血液が送れなくなったことにより生じる全身疾患の総称を言います。具体的な症状としては胸水による息切れ、足のむくみ、低血圧による肝・腎障害などがあります。
●心臓リハビリテーションとは何ですか?
心不全を発症した患者様は急性期を脱した後、ふだんの生活の中でも息切れなどの心不全症状を有することが多いです。心臓を保護する薬の内服に加えて、リハビリテーションを進めていくことで心機能の向上・症状の改善を図ることができます。心不全で入院した際に開始し、外来で継続していくことが可能です。
心臓リハビリテーションでは運動レベルの決定が重要になります。患者様ひとりひとりで適切なリハビリ強度は異なります。運動が軽すぎると効率が悪くなり、強すぎると嫌気性代謝となり、無理な運動となってしまいます。症状に応じて最適な運動負荷を決めることがこれまで一般的でしたが、最近ではCPX(心肺運動負荷試験)という方法があります。
●CPX(心肺運動負荷試験)とは何ですか?
CPXとは口に特殊なマスクをつけながら自転車による負荷を加えていき、呼気中の二酸化炭素や酸素濃度を測定していく検査です。それらや12誘導心電図、血圧・脈拍などのバイタルサインをリアルタイムで測定していくことで、ATレベル(好気性代謝から嫌気性代謝に切り替わる運動量)を決定することができます。その直前の負荷量こそが、その人にとって最も効率の良い運動負荷になります。
ご本人の自覚症状だけでは、例えば我慢強い方であればそれだけ無理な運動をおこなってしまう可能性がありますが、CPXでは呼気ガスの測定により代謝動態を評価することで、客観的にそれらを評価することができる強みがあります。CPXを用いることで安全かつ効率の良い運動強度を設定することができます。
●CPXはこんなことにも使えます。
CPXは運動耐容能の決定以外にも様々な用途があります。まずは総合的な心肺機能および予後予測です。循環器領域では、心エコー検査が非侵襲的かつ心機能の評価を簡単に行える検査であり、広く使われています。CPXは心エコー以上に心肺機能を正確に評価できるとされています。
また心臓リハビリテーションの遂行後に再検することで、運動耐容能がリハビリテーションによってどれだけ向上したかを評価することもできます。息切れの原因が心臓由来でない場合も、呼気の酸素・二酸化炭素濃度から原因の推測が可能です。そのほか、手術前に耐えうる心機能を持っているかの判定や最近では心臓移植の適応判定にも用いられています。このように適応が広がりつつある検査といえます。
●こんな人は注意しましょう。
CPXは以下のような人には適さない試験となります。
・腰が弱い方(足の疲れが先に来てしまい、運動耐容能の評価まで検査を行えないことがあります)
・狭心症の症状が強い方(運動負荷により胸痛が悪化してしまう危険性があります)
●まとめ
以上のようにCPXはリハビリの運動処方のみならず、様々な用途に用いられる体への負担の低い検査です。保険適応については条件がありますので、興味のある方は主治医までお問い合わせください。