読みもの

患者さんのための機関誌「きよかぜ」

産婦人科 医長 橋本裕子

プレ(pre)は「〜の前の」、コンセプション(Conception)は「受胎」、プレコンセプションケアは「お腹に新しいのちを授かる(妊娠)前の健康管理」を意味します。
つまり、プレコンセプションケアは、「若い男女が将来のライフプランを考えて、日々の生活や健康に向き合うこと」です。

正しい知識を得て健康的な生活を送ることで、将来の健やかな妊娠や出産につながり、未来の子どもの健康の可能性を広げます。
今は妊娠や結婚を考えていなくても、プレコンセプションケアを実施することで今の自分がもっと健康になって、人生100年時代の満ち足りた自分(well-being)の実現につながります。

なぜ、いまプレコンセプションケア?

●リスクのある妊娠の増加

若い女性のやせと肥満の増加、出産年齢の高齢化などから、リスクの高い妊娠が増加しています。妊娠前にリスクを減らしていくことが、健やかな妊娠・出産や生まれてくる赤ちゃんの健康につながります。

●不妊の悩みの増加
生理不順・生理痛をもたらす病気や感染症等が将来の不妊の原因になることがあります。男女ともに、正しい知識を得て行動することが、将来の不妊のリスクを減らします。

●人生100年時代
子どもを持つ選択をする、しないにかかわらず、若いうちからの健康的な生活習慣の積み重ねにより健康は培われていきます。

できることからはじめましょう

●妊娠と年齢 妊娠・出産には適齢期があります。
卵子は年齢とともに質が低下し、数も減少します。年齢が進むとともに妊娠率が低下して流産率が上昇します。加えて歳を重ねてからの妊娠はお母さんと赤ちゃんの健康リスクが高くなります。
ライフプランを立てるときは、キャリアプランだけでなく、これらのことも考えましょう。

●適正体重
やせも肥満も、不妊や妊娠・出産のリスクを高めます。
栄養不足による若い女性のやせ(BMI18.5未満)は、貧血・月経不順や不妊・低出生体重児の原因や、将来の骨粗鬆症の原因になります。
一方、栄養過多や太り過ぎ(BMI25以上)は、将来、糖尿病や高血圧などさまざまな病気のリスクを高めます。
男性の肥満も不妊のリスクを高める報告があり、注意が必要です。
 BMIを計算して、いまの体重を評価してみましょう。 BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)

●栄養バランスを整えよう
主食・副菜・主菜・乳製品・果物の5つのグループをバランスよく食べましょう。女性は妊娠前から妊娠初期にかけて、葉酸というビタミンをしっかり摂ることで、赤ちゃんの神経管閉鎖障害の予防につながります。
妊娠を希望する女性は緑黄色野菜を積極的に摂取し、サプリメントも上手に活用しながらしっかり葉酸を摂取しましょう。

●禁煙
タバコはがん・心臓病をはじめたくさんの病気を引き起こします。また男女ともに不妊症のリスクが増加し、妊娠後は流産、早産、周産期死亡、低体重を引き起こす可能性があります。赤ちゃんが生まれた後も乳幼児突然死症候群のリスク因子となるなど、広い範囲で影響を及ぼします。

●アルコール
妊娠中にお酒を飲むと、アルコールは胎盤を通って赤ちゃんにも影響し、胎児性アルコール症候群の原因になります。妊娠中は禁酒が原則です。妊娠前より節度のある飲酒を心がけましょう。

●性感染症
性器クラミジア・梅毒・性器ヘルペス・尖圭コンジローマ・淋菌感染症など若い人の間で、性的接触を介して感染する「性感染症」が増えています。
無症状であることが多く、知らないうちに相手にうつす可能性があるためコンドームの使用で感染を防ぎましょう。
また性感染症の中には、不妊の原因や、赤ちゃんの健康に影響を与えるものがあります。思い当たることがある場合は、検査・治療することが大切です。パートナーも一緒にチェックをしましょう。

●その他の感染症
風疹、麻疹、水疱瘡(みずぼうそう)…など、性感染症以外にも妊娠中にかかると赤ちゃんに影響を与える恐れのある感染症があります。
日頃から、感染予防に努めるとともに、ワクチンで予防できるものもあるため、妊娠を考える前にパートナーや家族も含め対策をしましょう。また接種後2ヶ月は避妊が必要となります。

●生活習慣病・持病・がん検診
健康診断で生活習慣病のチェックやがん検診を受けましょう。
妊娠前から生活習慣病を抱えている場合、妊娠経過や赤ちゃんに悪影響を与えることがあります。
例えば、妊娠前の高血糖は赤ちゃんの先天異常のリスクが、高血圧は妊娠合併症のリスクが高まります。
その他甲状腺疾患・膠原病・喘息なども治療によって病気をコントロールすることで、妊娠経過や赤ちゃんの健康リスクを減らすことができます。
また赤ちゃんへの影響から薬の変更が必要なこともあります。妊娠前にあらかじめ主治医と相談することでリスクを減らしましょう。

現在と将来の私たちの健康のため 将来の子供たちの健康のため
プレコンセプションケアをはじめましょう