花散らしの雨のおかげで、今年の桜はあっという間に散ってしまいましたね。
もうすぐ、病院前庭のサツキが満開になりますよ。それは見事なものです。
さて、先週は「新世紀の医療」と題してヒトゲノム計画のお話をしましたが、基本的な 遺伝子や、染色体と言った言葉の説明で終わってしまいました。
前回のお話を読んでどう思われましたか?細胞内で日々行われている遺伝子の世界に 少しでも興味を持たれましたか?そうなって頂けたらうれしいのですが・・・。
今回はヒトゲノム計画の本題に入りたいと思います。前回に引き続き出来るだけ分かり易く書いていくつもりですので、あまり掘り下げることは出来ません。このコラムを読んで、もっと詳しく知りたいと思われた方は、「ゲノム」をkeywordに検索してみてください。
それでは今月のお話をはじめます。
ゲノムというのは、一つの生命体を形成し維持していく上で必要なDNA情報の全てをさします。ですので、ヒトゲノムと言う場合には22本の常染色体とX染色体、Y染色体の計24本の染色体が持つDNA情報のことをさします。
遺伝情報とはDNAの塩基配列(塩基の並び方)の事を言い、ゲノムDNAの持つ塩基対の数を”ゲノムサイズ”と言います。
複雑な生物ほどゲノムサイズが大きいわけではありません。これは使われていない部分があるからです。ヒトの場合遺伝子の数は約10万個と言われていますが、ゲノムDNA中に占める割合は5~10%に過ぎず残りの約95%は遺伝子としては利用されていない部分だと考えられています。したがって、両生類にはヒトの30倍ものゲノムサイズを持つ生物もいますが、その分遺伝子として使われていない部分が多いと言うことです。
通常、ヒトゲノム計画と言えばゲノムDNA全てを読み取ることを言いますが、これには時間、労力、資金がかかります。ただでさえ後れをとっている日本が他の国々と同じ事をやっていたのではますます後れを取ってしまいます。
そこで考えられたのがcDNA計画と呼ばれる日本独自の計画です。
簡単に説明しますと、一般のゲノム計画は先ほども述べた様にDNA全てを解析しますがcDNA計画は働いている大事な遺伝子部分だけを読み取ってしまおうと言うものです。ある行程を経て、遺伝子として働いている部分だけを抽出しますので実際に解析する量が少なくなり、ヒトゲノムの50分の1~10分の1の労力しか必要としません。
しかし、デメリットもいくつかあります。その一つが、遺伝子と遺伝子の間に存在する 調節遺伝子が全て無視されてしまう点です。また、脳なら脳だけ、足なら足だけの設計図しか見ることができず、ヒト全体を見ると言うことには程遠いのが現実です。
しかし速さと言う面ではかなうものは無いため、このような方法が取られています。
なぜ、こんなにも急ぐのでしょう?医療と言う観点から見れば、多少時間がかかったとしても、当初の目的通りヒト全体を解析していくほうが得られる情報は有用だと思われます。それが分かっていても急ぐ理由は、特許権にあります。
遺伝子解析を行えば病気の成り立ちも分かってきます。そうすればそれを治療する新薬も開発される訳で、そのため商業分野ではし烈な競争が行われているのです。
今回はゲノム計画について簡単にご説明してきましたが、ここまで読んでこられて 皆さんはどんな印象を持たれましたか?
前回、事のさわりだけを聞いた時なんてすばらしい計画なんだろうと思われた方は、今この時点でもそう思われていますか?確かにすばらしい計画には違いありませんが怖さを感じませんか。未知の領域へ踏み入れる怖さはもちろんですが、倫理的な問題が起きないのだろうか、商業的考え方に支配されはしないだろうか、木を見て森を見ずの喩の如く細胞レベルでの話に終始してしまわないだろうか。
考え出せばきりがありません。事実、この計画に警笛を鳴らす人もいます。
次回はそういった問題点についてお話したいと思います。
